番外編:富士登山体験記(下山編)

御殿場ルートを下る
所要時間:4時間

 

いよいよ下山。
帰れる気持ちがはやり、意気揚々と下り始めます。

 

富士の山肌に草花が茂り、

 

「黄緑色の富士山だぁ~」

 

などと、軽口を叩く余裕があります。

 

勢いよく下ると、石たちにしょっちゅう足を取られるので、
一年分の冷や汗をかくことができます。

 

仕事で冷や汗をかかないためにも、ここで思う存分だしておきましょう。

 

ずいぶん下ったなぁと思い、下に見えた小屋らしきものが
もしや5合目?と期待半ばに、登ってくる男性に尋ねてみました。

 

「あれって5合目デスカ?」

 

すると、

 

「あれは7合目」

 

と、飛びっきり人を小馬鹿にしたような感じで言い放ちました。
期待感を一発で木っ端微塵にしてくれたその親切さに、涙が出そうになります。

 

その萎えっぷりといったら、食べても食べても減らない、
大食い選手権に出てくるようなデッカいラーメンと苦闘している錯覚に陥いるのとそっくりです。

 

7合目と言われたところに着いて表示を見ると、

 

7合9勺

 

…9勺って、ほぼ、8合目と変わらないわけですね。

 

この時、げんなりする、という意味を体感できる貴重な瞬間です。
ぜひ味わってみましょう。

 

半ば滑るようにして、ひたすら下り、もう6合目に近いだろ?と思ったら、

 

7合7勺

 

…天晴れ、富士山。

 

日本一であることを、身をもって理解出来ます。そして、敗北感に包まれること間違いなしです。

 

折れそうな心を叱咤しながら下ると、砂走りが途中から始まります。

 

イイデスカ?ここからが本番です。

 

砂利に足を埋もらせながら、スティックをうまく使えば、砂利スキーを楽しめます。
最初の30分くらいは面白く感じます。感じるだけです。

 

ここでは誰よりも前に行かないと、人が巻き上げる砂埃に全身を見事に染められて、
帰りの車内で非常に冷たい視線を浴びます。

 

外耳をアフリカンのように黒くしてみたかったら、是非とも人の真後ろをお滑り下さい。
あっという間にボビーオロゴンになれます。

 

1時間は滑り下りてるよね?と思い、同行者を振り返れども、
口がジャリジャリして見事に喋る気力を砂利に吸い取られます。

 

ジャリジャリするって、砂利砂利する、と書くのかな、
と頭をよぎるうちはまだいい方です。

 

人も少ない御殿場ルートでは、自分が止まれば、無音の世界を楽しめますし、
たまに聞こえる風の音が、絶望感を運んできてくれます。

 

膝をやられ、しょっちゅう立ち止まりますが、それくらいは気にしないでください。

 

霧が晴れ、延々と続く行く先が見えれば、自ずと、茫然と立ち止まる時が来るでしょう。

 

100万出すからヘリで迎えに来てくれ、と、心から切願する自分を発見できます。
こんなことでそんな大金払えるか!と思うかもしれませんが、大丈夫です。
間違っても誰も助けてくれませんので、
こんな時こそ太っ腹に100万とか、300万とか言えちゃいます。

 

なおかつ、絶望ですこぶる叫びたくなるので、叫んでみてください。
誰も相手にしてくれません。微生物すらいません。

 

こうなればしめたものです。
一目を気にすることなく、思う存分泣き叫ぶシチュエーションをゲットできます。

 

下りの間中、靴の中に小石がたくさん入ります。
滑り下りながら、靴の中でツボ押しが可能です。

 

ツボ押しが苦手な人は、
ルーズソックスのような砂除けグッズがあるみたいなので、ご準備ください。

 

心身ともにボロボロになりながら、砂まみれで5合目にたどり着きます。

 

山小屋に着いてみたら、なんと、バスのお迎え間隔が一時間以上あります。
そこで最後の嘆きを味わえる、なんとも贅沢なコースです。

 

どこまでも素晴らしくナンバーワンの富士山。最後まで裏切りません。
あまりにもくたびれていたので、タクシーを呼んでもらいました。

 

「もうちょっと行くとバス乗り場があるから、そこに伊豆タクシーがきますよ」

 

と、山小屋の従業員に言われ、最後の気力を絞り出して歩き出すのですが、
その山小屋からバス乗り場まで、400メートル。

 

ちょっと、って、たしかに平時ならちょっとだけれど…

 

怒る気持ちなど、逆さに振っても出てきませんので安心です。
ひとしきりですが、穏和な自分になれます。

 

膝の激痛でびっこを引きつつ、やっとタクシーに出会えました。
嗚呼、久しぶりに救われた感。

 

御殿場駅まで6000円弱。
もはや安い高いは考えない境地にいるのですが、いま思えば、きっとバスは数百円。。

 

金銭感覚すら狂わしてしまう富士山は、さすが世界遺産になるだけのことあります。

 

自分に誓いました。
もう二度と、富士山には登りません。

 

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面白おかしく書いてみました。
笑ってお読みいただければ幸いです。