番外編:富士登山体験記(登山編)

本サイトとは関係がありませんが、
去年、友人が富士山に登るというので
体験記を書いて送ったところ、
オオウケしてくれたので
ここにも載せようと思いました。

 

気が向いたらお読み下さいませ。

 

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初心者向け吉田ルートを登る
所要時間:10時間

 

「富士山に登らないバカ、二度登るバカ」などと、
誰が言い始めたか分かりませんが、
そんな言葉にほだされて、来てしまいました富士山5合目。

 

時刻は22時過ぎ。下調べもろくにせず、
睡眠返上で登る意気込みは、我ながら見上げたものです。
なんせ、初富士山。
つまり、なんにもわかっていない未熟者が、登るわけです。

 

知らないって幸せです。
ここまで無邪気に来ちゃうんですから。

 

夏真っ盛りとは言え、5合目は晩秋さながら。半そでではさすがに寒い。
バスから降り立った時、裸で放り出されたかのように、
一抹の不安を抱くかもしれません。
でも、問題ありません。その不安にもじき慣れます。

 

この不安は、ここから「一抹」の連続となり、何時間も続きます。

 

トイレが綺麗でない国を旅行しているうちに、
それがもう普通さっ、
ってくらいに慣れていきます。

 

寒さ対策で重ね着しているその傍らには、やはり居ました。
体感温度が我らニッポン人とはかけ離れすぎている欧米諸国の方々が。

 

なんでですかね。
なぜ彼らは、半そで半ズボンで居られるんでしょうかね。
同じホモサピエンスなのに、と首をかしげます。
こっちは荷物がかさばるけれど、まったくうらやましくありません。

 

ニッポン人であることに誇りを持ちながら、ヘッドライトをつけて登山道を歩き始めます。

 

さーっ、夜道を元気に登ろう!なんだか楽しいな~!

 

などと、ほざいているうちに6合目です。
あっという間ですここまでは。

 

なんだ、こんなものか。
と、しめやかな闇夜に鼻唄を響かせていると、
「5合目と言っても、5.7合目くらいからのスタートだから」
という声。

 

・・・ふぅ~ん、そうなんだぁ。

 

目についたのは、誰かが落としたゴミ。
拾ってあげる余裕があるうちは、先に待ち構える乳酸パラダイスを、露ほども想像できません。

 

乳酸、わかりますよね、筋肉疲労の賜物と言われる物質です。

さっ、頂上でご来光を見るんだ!登頂して凍頂烏龍茶飲むんだ!
などと、おやじギャグをいっていられるうちは、微笑ましいです。

 

かつて学生時代に、新潟の弥彦山に登っただけで
「登山経験あり」などと思っていたのですが、
1時間後には、そんな自分がちゃんちゃらおかしくなります。

 

見上げると、巡礼者たちの灯りのように、ライトが闇夜に連なっています。

 

・・・みんな物好きだな。

 

自分のことは棚に上げて、人に呆れる力がまだあります。

 

ほどよく疲れ始めた頃、やっと7合目に到着。
写真を撮っても、疲れた顔ではなく、ドヤ顔で映れる程度の元気は充分あります。

 

「着いたー!ライトが続いてて見えるね、あの先が8合目か」
「いや。あの連なり、全部7合目だから」

 

・・・はい?

 

喜びも束の間、気持ちいいくらいにブスッとハートを打ち抜かれます。

 

・・・あ、あんな上まで登っても7合目って。。。

 

こんなにも早く、脱落者の気持ちをかみしめることができるとは、なんてゴージャスな山なんでしょう。
そ、そういえば、わたしって、脱落するのが趣味だった気がするーっ。

 

どうです、このへなちょこっぷり。
完全に、我がニッポンの富士山をナメてました。

 

でもここで、諦めのエネルギーを3年分くらい一気に貯めこめるので、気分はとってもリッチになれます。
ドバイでもアブダビでも、こんなに「諦めリッチ」な人、いません。

 

登れば登るほど、酸素が薄くなります。
10メートル歩くかあるかないかで、ゼーハー、ゼーハー。
心臓の躍動感はハンパじゃありません。

 

おかげさまで、何十回休憩しているのか分からなくなります。
ゴルフでOBを出し続け、そのうちスコアがわけわからなくなるのと大差ないです。

 

壮大すぎる苦しさの中、唯一の慰めは星空です。

 

一晩に何百回、空を仰いだことか。
流れ星もジャンジャン来ます。優雅な天の川まで見えちゃいます。
「そ、そうさ。これ見に来たんじゃん!」

 

本来の目的を見失うこと請け合いです。

 

「ま、ついでにご来光見てもいいかな」と、やんわりすり替えをするくらいです。
この「すり替えスキル」は今後、会議で人を煙に巻く時に活きますので、登山中にどんどん自分を騙してみましょう。
どんなことでも乗り越えられる、ミラクルなチカラが備わるはずです。

 

あと、カロリーメイトチョコ味のおいしさと言ったら、三つ星ものです。
いままで食べてきたカロリーメイトは一体なんだったんだ?というくらい、別の食べ物に感じます。
富士山のおかげで、味覚までもが新境地です。

 

そんなこんなで、涙を飲む思いを胸に、岩をしばし登り続けます。
岩登りだっけ?と錯覚している人間の横を、ぶっちぎりで駆け上がっていく人がたまにいます。

 

が、決して争ってはいけません。
闘争心が湧き、不覚にも付いて行ってしまうと、めでたく高山病とお友達です。

 

そうそう、わたしって、この上なく頭痛が好きだったのよね~
と、酸素缶片手に真っ青な顔になること必至です。

 

そして、うっすら明るくなり始めた頃、ふらつき始めます。

 

睡魔の登場です。
目の前は八合目。
いつ転げ落ちるかわからないのに寝ながら登るスリル感は、何物にも代えがたい体験です。

 

四苦八苦って、なんで9じゃなくて8なのか?と、
意識半ばに、白目を剥きながら8合目に到達します。

 

やっと、ご来光のお時間がやってまいります。
ああ、神々しいご来光。
空は紫から群青に。深紅が混ざって次第にグラデーションの妙が展開されます。

 

眼下に広がる雲海は幻想的で、登って良かったと至福に浸れるひとときです。

 

だんだんポカポカしてくると、眠気でご臨終です。
冷たい石ころをベッドに大の字で寝るなど、後にも先にもこの時だけかもしれません。
稀有な経験ですから、お尻が痛いとか冷たいとか言わずに、「仮眠しろ」と囁く声に従ってください。
そのうち、アブの羽音で目が覚めます。
そしてめでたく、下半身の乳酸パラダイス。

 

「へへっ、筋肉痛って、すごいパワーだなー!さ、頂上いくぞ」

 

意地以外のなにものでもありません。
この頃には、自分を騙す天才になっていますので、そんなご自分を褒めてあげてください。

 

かなりの勢いで暑くなってくるので、着ていたものをドンドン脱いでいきます。
着ていると感じませんが、脱ぐとすべてが重く、邪魔にしかなりません。
捨てたくても、ゴミはお持ち帰りです。

 

9合目までくると、記憶があんまりありません。
どんだけつらいとか、やばいくらい日光が痛いとか、よく覚えていません。
たぶん、意識は寝ているからですね。
寝ながら惰性で登れるなんて、これこそ神秘です。

 

紫外線シャワーに目を潰されながら、しょぼしょぼ登り切ると、ラーメンのイ~匂いがします。
・・・日清カップヌードル醤油味、700円。

 

スーパーだと98円で買えたりしますよね。
でも、飛ぶように売れています。

 

なにより驚くのは、日清カップヌードル塩味をお持込みしていた若者が、
お湯くれ、と言ったら「500円ね」と言われていたことです。
若者の目ん玉が2倍大きく見えました。
まあ、ちょっと離れていたので聞き間違いかもしれませんが。

 

せっかくなので、頂上の郵便局から自分宛てにハガキを出すことをおススメします。
なかなかオツです。

 

どこ?
え?
すぐそこ?

 

・・・あのー、火口半周してますけど。。。

 

でも泣きません。
だってもう帰れるのですから。

 

疲れで手が震え、ブルブルした字で書いたハガキが届いたのは4日後。

 

字が汚すぎて、一瞬

 

だれ?

 

と思いますが、ちゃんと読めました。

 

「登頂おめでとう。そして、もう二度と、富士山には登りません!」